皆さんはじめまして。産総研の田村と申します。
初めて長岡市を訪れたのは、令和2年1月のことです。長岡市、長岡技術科学大学と合同で持続可能な社会作りに向けて「バイオエコノミー」を考えるシンポジウムを開催しました。このバイオエコノミー・シンポジウムは、長岡市長と弊所理事長の相互訪問がきっかけとなり実現したものです。当時、理事長から「長岡市といえば発酵がキーワードの一つ、何か一緒に出来ることを考えてはどうか。」とコメントされたことから、お互いの連携の可能性を検討しながらつくばー長岡間を往来するようになりました。今では長岡市に来る度に、笑顔とともに情熱的な両手での握手で歓迎してくださる関係者の皆さんとの再会がとても楽しみになっています。
現在、経済の発展と供に大量生産⇒大量消費⇒大量廃棄という一方通行型の社会構造に対して、資源を循環させ利益を生むというサーキュラーエコノミーという概念が提唱されています。更に化石資源由来の経済をバイオ由来の経済に変えて経済活動を行うバイオエコノミーという概念が提唱され、両者が融合した概念「サーキュラー・バイオエコノミー」が持続可能な開発目標(SDGs)を達成する手段として注目されています。
農業やバイオものづくりにおける原料⇒生産⇒消費といった一連のサプライチェーンにおいて、その過程で必ず廃水や廃棄物が出てきます。資源循環という視点では、この廃水・廃棄物の処理方法や効率化が今後益々重要になります。私達は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業で廃水の処理効率向上や廃水から他の有価物への再変換について研究を進めています。この取組みを長岡市と連携して進めることができれば、廃水処理場における処理効率改善と供に、醸造文化が栄えた摂田屋地区をはじめとする発酵製品を作る企業から製品生産過程で出てくる廃液の処理にも貢献出来るのではないかと考えました。
令和2年12月、また長岡市にお邪魔しました。この時は、長岡市、長岡技術科学大学と供にSIP事業を実施するための実証試験の説明会が開催されました。当日は雪が積もっており、至る所で長岡市発祥の消雪パイプからの散水を見ることが出来ました。同時に、なぜ道を歩くヒトのほとんどが長靴を履いているのかその理由に合点がいきました。テレビでしか見たことの無かった私にとっては、以外と勢いよく散水されていることに驚くと供に、自宅のある札幌で散水したら町中スケートリンクになってしまうなとか、豊富な地下水があるんだなとか、水資源循環の点からどのような課題と対策が行われているかなど考えながら冬の風物詩に目を奪われつつ説明会場まで移動しました。
長岡市には、日本でも最大級の生ごみバイオガス発電センターがあります。年間1万トン以上の生ごみを処理しながらバイオガス(メタンガス)を発酵生産しています。生産されたガスを利用して発電するのみならず、発酵後に生じる残差についても有効利用している資源循環や脱地球温暖化に貢献している施設です。メタン発酵後の廃液(消化液)は、隣接した下水処理場で処理され河川や海などに放流されています。この消化液を利用して廃液処理効率化に向けた実証研究について趣旨説明し、以降装置を稼働しデータを集めています。
今回の実証試験に向けて最も苦労したのは、装置の設置場所がなかなか決まらなかったことです。実験室で行う実験に比べるとかなり規模は大きくなり、設置に向けた各種条件を満たす場所がほとんど無かったのが実情でした。長岡市関係者の皆様には、廃水処理と水質保全の観点からご理解ご協力頂いたことに深く感謝したいと思います。公共用水域の水質保全を図ることを内包する下水道法という法律がありますが、日本で最初に制定されたのが1900年です。現下水道法の前身となるこの法律制定に尽力したのが長岡市出身の長谷川泰でした。彼が内務省衛生局長の時です。このことを知った時長岡市と私達は見えない糸で結ばれていたのではないかと勝手に因縁を感じてしまいました。
循環型社会構築は何も組織的に行うことが全てではありません。むしろ、個人レベルで身近なところから出来ることを考えることが重要だと思います。江戸時代の日本は、鎖国政策の影響もあり植物資源を最大限活用した独自の循環型社会を築いており、化石燃料依存からの脱却には江戸時代にヒントありとも言われているようです。衣服を例に取ると新品⇒浴衣⇒寝巻き⇒おむつ⇒ぞうきん⇒燃料⇒灰を肥料と無駄なく使われていたそうです。日用品から資源循環とは何かをまずは考える事が新たな潮流を作ることに繋がるのではないかと思います。
循環型経済社会に基づいて形成される「バイオコミュニティ」、その実現に向けて「人づくりはまちづくり」として受け継がれている米百俵の精神をもって、バイオエコノミー先進都市としての新たな長岡のまちづくりに期待しています。
長岡バイオエコノミー・シンポジウムにて(筆者は2列目の左から2人目)